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2001/04/23

本の中の強い女,弱い女 その十五 『巴里・妖都変 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹 / 光文社カッパ・ノベルス

Nimg7080【あたしは,あたし以外の女が世界を支配するなんて,ガマンできないの!】

 ナンシー関と町山広美の対談『隣家全焼』を読んでいたら,「胸や乳首を見せるのが仕事で,しゃべるのは仕事じゃない」セクシータレント反町隆史という話が出てきた。「見映えのする男は今は,とりあえず乳首を出してぶすっとしていれば,女にウケておこづかいすらもらえる」,この手の男女の役割逆転の話題は当節あちこちでお目にかかる。
 だが,実際のところ,弱い男は確かにボウフラ同様どこにでも沸いてくるが,本当に強い,とため息の出るような女にはなかなかお目にかかれない。そもそも強い弱い,偉い偉くないという価値観そのものが細分化,相対化してしまい,「強いってなんですか」(©幕之内一歩)なご時世ではある。

 そしてそうなると「強さ」の1つの側面はいかに我儘であるか,その我儘をどれほど押し通せるかがバロメーターとならざるを得ない。強いことは必ずしもプラスの価値とは言えないのだ。その結果,強くてなおかつ魅力的なヒーロー,ヒロインは,荒唐無稽な本やマンガの中でしか成立しなくなる。いや,マンガの中ですらなかなか成立しない。

 というわけで,めっぽう強い女を描く本シリーズはそれはもう,十分に馬鹿馬鹿しい。
 主人公・薬師寺涼子は二十七歳,警視庁刑事部参事官を務め,階級は警視。東大法学部をオール優で卒業したいわゆるキャリア官僚,しかもアジア最大の警備会社JACESの社長令嬢であることを悪用して官僚や政治家の弱みを握り,権力を欲しいがままにしている。絶世の美女でスタイルも抜群だがその性格は傍若無人かつ傲岸不遜,天衣無縫にして唯我独尊,ドラキュラもよけて通る最強にして最凶の女性官僚「ドラよけお涼」,ついでに「桜田門の黒バラ」「霞が関の人間原子炉」とは彼女のことだ。

 今回舞台は冬のパリ。もちろん“私”こと泉田準一郎警部補もいやいやつき従い,二人がパリに舞い降りるやいなや人の脳ミソを吸い取る奇怪な獣が現れて涼子の目が光る。あとはいつものように室町由紀子警視,岸本明警部補らも巻き込んで,一気呵成。情報通信産業だとかネオナチだとか錬金術とかの文字が通り過ぎたような気がしないでもないが,細かいことはどうでもよろしい,要はドラよけお涼が気がすむまで暴れた,日誌に書くのはそれで十分。読み手は泉田警部補と供にお涼の罵詈雑言のシャワーを浴びて真っ白に燃え尽きる。
曰く「よろしい,さすがにあたしの忠臣ね。あたしが不愉快になったときには,君も不愉快になって,あたしが行けと命じたら突進するのよ」
曰く「そう,だからあたしがパリに行くときには,君もパリに行くの。あたしが冥王星に行くときには,君も冥王星に行くの。あたしが地底王国に行くときには,君も地底王国に行くのよ」
曰く「常識の通じない日本人のオソロシサを、たっぷり思い知らせてやるから覚悟おし!」
 これらの言葉に淡々と「ごもっともです」と答えられるようになったらあなたも立派な忠臣である。「田中芳樹のほかの作品に比べてまるで」とか「錬金術といってもこれでは」「前作の敵のほうがまだ」などとは間違っても口にしてはいけない。そんな口は,JACES開発の特製スカーフ兵器で,こうだ。べしべし。

 ちなみに,本薬師寺涼子シリーズは,第1作『摩天楼』が講談社文庫,のちに書き下ろし短編を加えて講談社ノベルス,第2作『東京ナイトメア』が講談社ノベルス,この第3作『巴里・妖都変』がカッパ・ノベルスと,発行元,版形からしてやりたい放題。次はそろそろハードカバーか。それも日経BPなんてどうよ。

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