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2001/03/01

『フリーマントルの恐怖劇場』 フリーマントル / 新潮文庫

Nimg4882【エルスペスはいやだって】

 今週は『消されかけた男』はじめブライアン・フリーマントルの作品を何冊か手にする烏丸である。しかし,本筋のチャーリー・マフィンものを何冊か読んだところで,つい傍流の短編集に手を伸ばしてしまうのが烏丸の悪い癖。まずはタイトルにひかれて『屍泥棒 プロファイリング・シリーズ』,ついでこの『恐怖劇場』。

 本書は,なんというか,功成り名遂げた大物ポップミュージシャンが,かつて慣れ親しんだオールディーズをリメイクしてアルバムを1枚こしらえた,そんな感じだろうか。内容はかなりオーソドックスな「怪談」である。
 もちろん,怪談といっても,作者自身述べている通り,目に見えない“東洋的魂魄”ではなく,人間の姿をもった“西洋的ゴースト”のほうである。同じ幽霊でも足があるし,どすんとドアを閉め,人にたたれば皮をはぎ,腹を裂く。
 東欧の村に伝わる領主の呪いを描いた「森」,英国の名家を舞台にした悲劇「ウェディング・ゲーム」のような正統派の怪談から,霊界との通信で株の動向をはかる「インサイダー取引」,作者得意のスパイを主人公とし,苦笑いを誘う「魂を探せ」など,全12話はバラエティに富み,気分転換にはうってつけ,逆にいえば別にフリーマントルでなくともよさそうな,そんな作品群である。

 さて,それだけならことさら紹介するほどのこともないのだが,少し興味深く思ったのが収録作の1つ,「遊び友だち」だ。ブロードウェイで成功した夫婦が,ロード・アイランド州の古い家を別荘に買い求める。その家での生活は快適だったが,やがて子供たちが,その家に住むエルスペスという幼い友だちのことを口にするようになる。……

 どうやらこれは,英米の怪談の1つの鋳型らしい(SFにおける「冷たい方程式」のようなものか)。
 本棚から探してみた限りでも,
   ローズマリー・ティンパリイ「ハリー」(ハヤカワ文庫『幻想と怪奇(2)』収録)
   ジョン・コリア「ビールジーなんているもんか」(ハヤカワポケットミステリ『怪奇と幻想(2)』収録)
   A・M・バレイジ「遊び相手」(ハヤカワ文庫『ロアルド・ダールの幽霊物語』収録)
 これらはいずれも,古い家に越してきた子どもが,その家に住む子供と親しくなり(もちろん,大人たちにその子供の姿は見えない),最初は子供の空想と思われたものが,だんだん……という展開である。誰のどの作品を端緒とするのかはわからない。サキにも,この通りではないが似た設定の短編があるようだ。
 見えない子供は,たいてい,遠い昔,その家でなんらかの事故や病で死んでしまった子供で,悪意があるわけではないが,その家に越してきた子供たちを自分の側にとり込もうとする……。
 大人たちの反応はさまざまで,とくにバレイジの「遊び相手」は,従来の作品への鎮魂というか,一種逆手にとった結末で,冷たい清冽な水が心に流れるような思いにかられる。
 フリーマントルも,また,その鋳型に新しいバリエーションを加えようとしたのだろう。それが成功か失敗かといえば,さてどうか。 ←読み取り課題

 ところで,我が家の長男も,3歳から4歳にかけて,目に見えない友だちでなく,目に見えない「ぼくのニホン」についてときどき思い出したように口にしていた。もとより,国と市と家の区別もつきかねるような幼児のことで,他愛ない空想とわかっているのだが,ときに淡々と「ニュースだよ。ぼくのニホンで人がたくさん病気で死にました」などと言われると少々薄ら寒い思いをしたものである。

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