『サトラレ』 佐藤マコト / 講談社モーニングKC
【だめだったんだよ ありがとうなんて 言うなよ】
日清サラドレではない。いわんやハドソンのサラトマでもない(古いぞ烏丸)。
「サトラレ」とは,先天性R型脳梁変性症,柳田國男が採取した「サトリの妖怪」の逆……わかりやすく言えば「口に出さなくとも思ったことが周囲約50mに筒抜けになってしまう」先天性の奇病である。1千万人に1人の確立で生まれてくると言われている。彼らは例外なく天才であり,あらゆる分野で素晴らしい業績を残している。
政府はサトラレの能力が人類共有の財産であるとし,発見され次第,将来の方向性がある程度決まるまで科学技術庁直属のサトラレ対策機関の管轄保護下に入れ,進路が決まり次第,文化科学厚生など関係省庁に引き継ぐ。
しかし,サトラレ保護法が整備される前,最初のサトラレは,堪えられなくなって死んでしまった。だから,サトラレには自分がサトラレであることを知らせてはならない。そのため,サトラレには常に数人のシークレットサービスが警護につく。このあたり……作者は日本テレビの「はじめてのおつかい」からヒントを得たに違いない。
第1話「西山くんの恋」は,そんなサトラレで量子物理学者の卵,西山幸夫くんの恋の物語である。
なにしろ彼の考えることは,周囲50mの人に筒抜けなのである。道を歩いていて「わっ おっきな おっぱい」と喜んだり,好きな女性を見かけて「川上さんだっ! スタミナ定食食べてるっっ」と思ったり,「はァ─────っ スタミナ定食になりたい……」と恋煩いしたりしても,それが全部が全部川上さん含む周囲の人々にまるごと筒抜けなのである。科学技術庁は官房長官を招いて会議を開き,西山くんの恋を早期解決しようとはかる。それに対し,西山くんの警護にあたっていた小松洋子は……。
素晴らしい。本当に素晴らしい。シャンペン抜いて乾杯だ。読書家冥利につきるというか,マンガ&SF好き至福の時というか。
この設定だけで,もう勝負は見えたようなものだ(なんの勝負?)。よしんば一発屋で終わったとしても,パッと咲いた見事な花火と言えるだろう。
特筆すべきは,この秀逸な設定のみならず,アシスタント歴15年という作者の視線がしみじみと優しいことだ。
サトラレの家族はもちろん,警護にあたる者たち,ただ袖すり合うだけの人々。誰もが皆,サトラレの心がもれていることを一生懸命知らないフリをし,サトラレを思いやる。もちろん,サトラレに対して知らないフリをするのは国民の義務であり,それを破れば懲役刑が待っているわけだが,そんなこと以前に一人一人一人一人が優しい。優しくならざるを得ない。ここしばらく相次ぐ少年犯罪と対極の心遣りがここにはある,そんな気がする。
そして,そんなサトラレだからこそ,どんなに優秀でも絶対に就業させてはいけない職業がある。周囲がそれを推し留め,なおかつそれを突破せんとするサトラレを描く第4話,第5話,これは泣ける(それぞれなんの職業かはナイショ。ぜひ単行本を手にして読んでください)。
本当に,泣ける。
本書は講談社の「モーニング新マグナム増刊」に掲載。モーニング,アフタヌーン系は,本当にこういう作品を世に出すのが上手い。見事。
なお,『サトラレ』は,安藤政信,鈴木京香出演で映画化が進められているそうである。『踊る大捜査線』の本広克行監督とのことなので,つまらない映画ではないと思うが,おそらくこの素朴な,すみずみまで満たされるような優しさは映像にはならないだろう。原作を先に読んでおくことをお奨めしたい。
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