『猟奇文学館3 人肉嗜食』 七北数人 編 / ちくま文庫
【うもうござった。】
ヌルいのシュミが悪いのとぶつくさこぼしながら,発行されるたびに読んでは紹介してしまう「猟奇文学館」シリーズ,『猟奇文学館1 監禁淫楽』,『猟奇文学館2 人獣怪婚』に続く3冊めにして完結編。
仕方がない。死体と寄生虫には勝てない私である。
今回の収録作品は
村山槐多「悪魔の舌」
中島敦「狐憑」
生島治郎「香肉(シャンロウ)」
小松左京「秘密(タプ)」
杉本苑子「夜叉神堂の男」
高橋克彦「子をとろ子とろ」
夢枕獏「ことろの首」
牧逸馬「肉屋に化けた人鬼」
筒井康隆「血と肉の愛情」
山田正紀「薫煙肉(ハム)のなかの鉄」
宇能鴻一郎「姫君を喰う話」
の11編。
やはりどことなく甘い印象があるのは,1つにはSFをどう位置づけるかについての明確な意識なしに漫然と小松や筒井から作品を選んでいるように見えること。村山槐多と中島敦と生島治郎と小松左京と杉本苑子をこの順に並べるなら,なんらかの覚悟がいるだろう。最近はいらないのか。
次に,3冊めにいたって突然実在の食人鬼についてのノンフィクション(「肉屋に化けた人鬼」)を混入させたこと。ルール違反というわけではないが,なんとなく「ずるい!」ような気がする。それなら逆に,1冊めの『監禁淫楽』に最近の監禁事件を詳細に載せる手もあっただろうに。
もう1点,3冊いずれにも宇能鴻一郎の作品を選んでいること。宇能は「課長さんたら,ひどいんです」文体でエロ小説を量産する前は,いわばストロングスタイルの本格派小説家だった。が,今回収録された3作はいずれも聞き書きの形をとり,巧緻ではあるがこと猟奇に限定すればやや情緒に流れるというか,穏やかさ,上品さが目立つ。
もちろん,再三書いた通り,本シリーズに収録された作品群は,1つ1つ文学作品としてみればいずれ劣らぬ傑作揃いで,このような文句を言われる筋合いはない。
結局のところ,解説に「(インターネットで「カニバリズム」「人肉嗜食」という語を含むサイトを検索したところ)猟奇アンソロジストの私でさえ目をそむけたくなるような過激なものから」とあるように,編者の七北数人が根っから猟奇趣味ではないということが問題なのかもしれない。
猟奇アンソロジストを自称するなら,そのようなサイトにも目をそむけず,いやむしろ舌なめずりして見入るのが妥当と思われるが,如何。
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ところで,こういうところで夭逝詩人・村山槐多(1896-1919)の名前が出てくるのは嬉しいようなくすぐったいような気分である。槐多の詩のいくつかは,遠い昔,テロリストになることを夢見つつ日々口ずさんだ,いわば心のテーマソングであった。
四月短章(第四章)
血染めのラッパ吹き鳴らせ
耽美の風は濃く薄く
われらが胸にせまるなり
五月末日日は赤く
焦げてめぐれりなつかしく
ああされば
血染めのラッパ吹き鳴らせ
われらは武装を終へたれば。
血に染みて
血に染みて君を思ふ
五月の昼過ぎ
赤き心ぞ震ふ
あはれなるわが身に
はてしらぬ廃園に
豪奢なる五月に
君が姿立てる時
われはなくひたすらに
わが血は尽きたり
われは死なむと思ふ
豪華なる残忍なる君をすてゝ
血に染みて死なん。
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