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2001/01/23

本の中の名画たち その五 『押絵の奇蹟』 夢野久作 / 角川文庫

Nimg3867【ええもう,絶版とはくちおしや】

 夢野久作は1889年(明治22年)生まれ。昭和初期の探偵文壇にひぃゆるると彗星の如く現れ,また彗星の如く消えてしまった作家である。「夢野久作」とは彼が最後まで過ごした郷里・福岡地方の方言で,夢想にうつつを抜かす者といった意味らしい。
 1926年(大正15年),雑誌「新青年」に投稿した「あやかしの鼓」でデビュー。1936年(昭和11年)に脳溢血で亡くなるまで,活動は僅か10年余りだが,土俗的な狂気とモダニズムみなぎるその作品群は近年再評価され,ことに長編『ドグラ・マグラ』は小栗虫太郎『黒死館殺人事件』,中井英夫『虚無への供物』と並んで「アンチミステリー」の傑作とされている。
 もっともこのアンチミステリーなる言葉は内実があってないようなもので,粗筋はオーソドックスな推理小説ながら史学,神学,魔学,犯罪学等へのペダンチックな薀蓄が底なしにくだくだしい『黒死館』,全編生乾きの血樽の底で記憶喪失者がもがくような,どちらかといえばグロテスクなサイコホラーと言うべき『ドグラ・マグラ』,そして明晰な密室トリックと丁丁発止の探偵議論を展開して一見最も現代的な本格パズラーに見えながら,スピリチュアルな面で唯一ピュアにアンチミステリーたる『虚無への供物』,と,実はこの3作にも(分厚さ以外)共通項はほとんどないに等しい。その分厚さにしても,最近はめったやたら長いミステリが少なくなく,3作ともさほど目立つものではなくなってしまった。

 夢野久作の作品群は,葦書房,三一書房からの作品集のほか,最近築摩書房から文庫でも全集が刊行され,また社会思想社の現代教養文庫にも何冊か既刊がある。
 また,角川書店は『押絵の奇蹟』『犬神博士』『ドグラ・マグラ(上・下)』『少女地獄』『瓶詰の地獄』『狂人は笑う』『人間腸詰』『空を飛ぶパラソル』『骸骨の黒穂』と代表作を一揃い文庫化していたが,現在は『ドグラ・マグラ(上・下)』『少女地獄』を除いて絶版。
 実は,今回,「本の中の名画たち」として取り上げるのが,この,絶版の角川文庫群である。以下,ようやく本文。

 本の表紙に名画が用いられることは少なくない。古今の名画を流用したもの,書物として有名になるとともにその装丁が記憶に残るもの。もちろん,内容に分不相応な名画を冠した書物は不愉快だが,それは早晩淘汰される。最近では小林よしのり『新ゴーマニズム宣言』第1巻がモローの「オイディプスとスフィンクス」の構図を模しており,小林の画は好みではないものの頬笑ましく思われた。

 さて,角川文庫の夢野作品の表紙は,これが俳優・米倉斉加年(よねくら・まさかね)の手によるものなのである。
 米倉は劇団民芸出身の顎の長い(失礼)性格俳優だが,その絵の才能も大変なもので,ボローニア国際児童図書展グラフィック賞グランプリを受賞した『多毛留』など凄みのある絵本,画集も何冊か上梓している。正直言って,ニ科展に入選したと文化人面する○○○や○○のごとき水準ではない。
 そのぶっ飛んだ線の冴え。この目はどうだ。この首はいかが。そして夢野作品にあつらえたような色遣い。もう少し可憐な乙女を描いた表紙もなくはないのだが,ここではこの『押絵の奇蹟』を添付画像とした。

 幸い夢野を未読の方は,古書店でかき集めてでも角川文庫版を入手することをお奨めしたい。そのとき,ギラギラした眼の男があなたの前にたちまち朱い大きな口を開いてカラカラと笑い,下唇を血だらけにした女の苦悶の表情がツイ鼻の先に現れ,あとは時計の音ばかりがブウウウ──ンン──ンンン…………。

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