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2000/12/22

本の中の強い女,弱い女 その十三 『はやぶさ新八御用帳(八) 春怨根津権現』 平岩弓枝 / 講談社文庫

Nimg3077【右に聖天社,並んで弁天社】

 以前,マンガの最終回をいくつか話題にしたことがあるが,最後がわからないのはストレスがたまるものだ。『あしたのジョー』や『巨人の星』,『エースをねらえ!』のように最終回が明確で,しかも書店店頭で比較的簡単に手にできるものはよいが,どう終わったのか思い出せないマイナー作品はやっかいだし,『サイボーグ009』のように作者が亡くなってしまったもの,『ゴルゴ13』のように最後が予測できないもの,『ガラスの仮面』のように中断したままのものなどはどうすればよいのか。

 小説でも同様なことはいえる。
 池波正太郎の『鬼平犯科帳』や『剣客商売』は,作者の死によって永遠に未完となった。作中にときどき主人公の老いや死についてふっと触れられているだけに,はたしてどのような終幕が用意されていたのか,それともとくに用意されていなかったのか,そのあたりはわからない。

 時代小説といえば,現在も継続されている作品の1つに,平岩弓枝『御宿かわせみ』(現在24巻まで)がある。江戸後期,大川端の旅篭「かわせみ」を舞台に,武家の次男坊・神林東吾とかわせみの女主人・るいの恋を中心に展開する物語。作品はすべて短編で(総数200編以上!),江戸の町に起こるさまざまな事件を扱かった一種の捕物帳でもある。
 同心の娘だったるいが武家を捨てたこと,東吾の兄・通之進に子供がなく東吾が神林家の与力職を継ぐ可能性があったことなどから2人の行く末に読者ははらはらしたものだが,27年にもわたる連載の間に東吾とるいは夫婦となり,最近は待望の子供(千春)も生まれた。通之進夫婦も(少々わけありだが)麻太郎という養子を得た。しかし,黒船来航など時代背景は切迫しており,展開は予断を許さない。

 とまあ,『鬼平犯科帳』や『御宿かわせみ』は手放しでお奨めできるのだが,同じ平岩弓枝が書き続ける『はやぶさ新八御用帳』はさてどうか。
 こちらの主人公・隼新八郎は,南町奉行根岸肥前守の内与力。本来与力は町奉行所という機関に所属する役職(世襲)で奉行個人の家来ではないが,内与力は奉行が自分の家臣を奉行所勤務とさせたもの。いわば奉行の直属の部下であり,腹心中の腹心といえる。

 『はやぶさ新八御用帳』の第1作「大奥の恋人」は長編で,かなりシリアスな印象だった。切なくもにぎやかな市井を描く『御宿かわせみ』に対し,こちらは武家の禁忌や傲慢,男女の愛憎など救いのないテーマが少なくない。しかし,第3作以降の短編集では「今日もお江戸は日本晴れ」な能天気度が増し,どうも鬼平の権力とかわせみのアットホームさのよいとこどり,そんな感じになってしまった。
 そうなると主人公の調子のよさが鼻につくのは烏丸だけだろうか。奉行の権力をかさに行く先々で「殿様」と持ち上げられ,妻を娶った後でかつて屋敷に奉公していたお鯉を愛していることに気がつく。相思相愛をよいことにお鯉を危険な任務に送り込み,なさぬ仲になり,あげく上司たる南町奉行の身の回りの世話をさせて事件解決のアイデアを借りる。つまり家に帰れば正妻,勤め先には聡明でおきゃんな愛人が待つわけだ。

 文庫の新刊が発売されるたびつい手にしてしまう本シリーズではあるが,その最終回が読めなくともさほど惜しいとは思えない。奉行が失職,新八郎とお鯉が引き裂かれる,妻・郁江が自害,そんな展開ならともかく,一見ほのぼのに見えて内にいろいろ抱えるかわせみに比べ,まるでお気楽極楽なはやぶさ新八。お上にかわっておしおきよ。

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