『猟奇文学館2 人獣怪婚』 七北数人 編 / ちくま文庫
【美女と野獣,つうとよひょう】
少し前にご紹介した『猟奇文学館1 監禁淫楽』の続巻である。
今回は「人獣」,つまり人間と人間以外のものが結ばれる話で,リアルな「獣姦」となるとさすがに少々エグいが,言ってみれば鶴の恩返しや雪女,羽衣伝説などの民話,昔話がジャンルとしてはこれにあたる。陰陽師・安倍晴明が父と狐の間に生まれた子である,などというのも広義には含まれるかもしれない。
前巻のテーマ「監禁」は全く対人間的というか,いわば現世のテーマであり,ある意味よほど作家が頑張らないと現実のほうが迫力に満ちた内容となりかねない。というより,前巻に感じたひ弱さは現実の事件をどれだけ凌駕できるかという点でやや心もとなかったことに由来する。
しかし,今回のテーマは現世的な「獣姦」をテーマにした場合を除けばいわゆるファンタジーの領域であり,作家の自由な発想にゆだねられる。というわけで,客観的・数値的な作品の評価(そんなものがあるとしてのことだが)は別にして,読み手としては素直に楽しめるものが多かったように思う。
今回の収録作品は,ほんの数ページの掌編も含め,次の12点。
阿刀田高「透明魚」
赤江 瀑「幻鯨」
眉村 卓「わがパキーネ」
岩川 隆「鱗の休暇」
村田 基「白い少女」
香山 滋「美女と赤蟻」
宇能鴻一郎「心中狸」
澁澤龍彦「獏園」
中 勘助「ゆめ」
椿 實「鶴」
勝目 梓「青い鳥のエレジー」
皆川博子「獣舎のスキャット」
軽い変化球から蟻のたかる毒団子,SFから中間小説,散文詩風まで,種々雑多な品揃えだが,楳図かずお初期の怪奇マンガを彷彿とさせる「鱗の休暇」,ゴジラの原作者・香山滋による秘境趣味あふれる「美女と赤蟻」,馬鹿馬鹿しくも物悲しい「心中狸」など読みどころは少なくない。
特筆したいのは村田基。あまり知られているとはいえないSFホラー作家だが,「白い少女」が収録されたヤハカワ文庫『恐怖の日常』は,絶版ながら古本屋でぜひとも探してほしい傑作揃い。ことに「反乱」という作品など,全身の毛穴から蟲が沸いて出るような異様な皮膚感覚ホラーで圧巻である。この最後の1ページ分ときたら……思い出しても身の毛がよだつ。
次いでは,かなり直接的な「獣姦」を描いたある短編だが,それがどれかは言わぬが薔薇の刺か。内容(BGM?)に一部うなずけない点はあるものの,作品を被う生理的なキショク悪さはなんとも言えない。短編集を文庫化する際に他の作品と差し返られたのも「あまりに不健康かなァと自粛」したとのことで,そのくらいの作品の1つ2つ収録しないと「猟奇文学館」の肩書きが泣くというものである。
……それにしても,人間ほど気持ちの悪い生き物はいないのかもしれない。妙なバラエティなど意識せず,はっきりエログロに絞って作品を選べばよいのに。それが出来ないのも,筑摩書房ならではか。
ところで,今回の収録作のうち,「ゆめ」と「鶴」には人間のお相手(?)として鶴が出てくるのだが,実は前巻『監禁淫楽』収録の赤江瀑「女形の橋」も将軍お抱えの若太夫が鶴の新作能を舞うために鶴の里を訪ね歩き,やがて禁忌に触れてしまう,というものだった。「猟奇文学館」2巻,合わせて20編中3編が鶴にかかわるというのは,編者・七北数人の性向をおもんばかるに余りあり,純文学へのくどいこだわりともども,少しいやな匂いだ。
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