[詠嘆] 旧石器発掘捏造
毎日新聞というところは,大手紙の中ではいまだブン屋意識が強いというか,たまに他紙が歯噛みするような大スクープをものにしてみせる。今回も,疑念を持たれていた人物の怪しい行動をチェック,ビデオ撮影してそれを突きつけ,「自白」まで持ち込んだのだから,見事なまでの単独スクープである。
もちろん,メディアにこのような形で人を裁く権利はあるか,という議論は必要だろう。今回も一歩間違えれば松本サリン事件の際の河野さん同様,罪なき研究者を貶める可能性は十分にあった。しかし,今回はある世界での権威とされる公人の行為,言葉のチェックの範疇だったと考えてよいように思う。
チェックメイトを食らったのは東北旧石器文化研究所の藤村新一副理事長(50歳)。彼は180か所以上の遺跡発掘にかかわり,発掘団が総出で発掘にあたっても何も出てこない現場の片隅から石器を発見する手腕から「神の手」とまで称された人物である。
捏造を見破られた現場は宮城県築館町の上高森遺跡。今年10月,約60万年以上前のものとみられる旧石器などが見つかったとして注目されていたのだが,それは彼が自分のコレクションから持ち込んだ石器を埋め,それを独特の経験と勘に従って発見したかのように偽ったものだった。
藤村副理事長は毎日新聞の問いに,今年9月,北海道十津川町の総進不動坂遺跡で見つかった旧石器も自分の捏造であることを認めている。
しかし,そもそも毎日新聞が藤村氏をマークし,ビデオ撮影したのは,彼の「神の手」があまりにあざやかにすぎ,さらに掘り起こされた石器そのものに対してすでに何人かの研究者から疑念が噴出していたためである(たとえば藤村氏発掘の前期・中期旧石器が往々にして発掘面に平らに出土することなどが問題にされていた)。これらの疑義がかなり前からある以上,藤村氏がいかに否定しようと,捏造が上高森遺跡と総進不動坂遺跡の2か所だけとみなすのは早計だろう。
彼の業績が全否定された場合,「70万年以上前」とされつつあった旧石器文化の起源が「3万年前」まで逆戻りする可能性があり,また最古の埋葬が原人の手によるという世界規模のテーマも揺らぐことになる。とりあえず彼の全業績をいったんゼロに戻し,確証が得られたもののみ再評価するくらいの厳しい姿勢が必要ではないだろうか。遺跡によっては彼以外の者も石器を発見したのだからすべてが捏造ではないはず,という声もあるが,報道によるとなかなか石器が出ない現場で彼が「このあたりに出そうだ」と指さした場所から他のスタッフが石器を掘り出す,といった情況もあったらしい。
考古学は,進化についての議論と並んで立証の難しい学問の1つではある。検証,反論がシステム化されておらず,大学の派閥,研究室のうち発言力の強いところの声が通る,という面も否定できない。また,ある大手紙と親しい研究者の論説なら大見出し,他紙は無視,ということも少なくない世界である。
烏丸は考古学は知人の勧めに従ってたまに本を読む程度,全くの素人に過ぎないが(本文もすべての文末に「そうだ」「らしい」を付加して読んでいただければ幸いである),今回の事件がただスキャンダルとして立ち消えになるのでなく,考古学のフェアな研究,発表の1つの道標となってくれれば,と切に願う。
それにしても,ねえ。なんてこった。
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