烏丸のそれはちょっといやだ その8 『猟奇文学館1 監禁淫楽』 七北数人 編 / ちくま文庫
【その前に体を拭きましょうね】
1989年1月,19歳のホステスを足立区内のホテルに連れ込み乱暴したとして逮捕された少年達を追及したところ,アルバイト先から自転車に乗って帰宅する途中だった女子高生(17歳)を別の少年の家に拉致監禁,暴行を加えて殺害し,死体をドラム缶にコンクリート詰めして放置したことが明らかになった。
2000年1月,新潟県内で1990年11月に行方不明になった少女(当時9歳)が19歳になって保護された。彼女は男性(逮捕時37歳)に無理やり連れ去られ,怖くて逃げられなかった,家の外に出たのは今日が初めてと答えた。
これらの事件が他の営利誘拐や殺人事件に比べても記憶に生々しいのは,少年犯罪,犯行を知りつつ放置した親の責任,警察の不手際などだけでなく,「監禁」という事件そのものの構図が多くの男達の心の闇の琴線に触れたからではないか。
誰にも渡したくない,触れさせたくない少女を疾風のようにさらい,無垢なまま閉じこめる。食事も洋服も言葉も性も,すべて閉じた函の中で……。
そんな「監禁」をめぐる古今の短編を集めたのが本書である。収録作は以下の通り。
皆川博子「朱の檻」
連城三紀彦「選ばれた女」
小池真理子「囚われて」
宇能鴻一郎「ズロース挽歌」
式 貴士「おれの人形」
篠田節子「柔らかい手」
赤江 瀑「女形の橋」
谷崎潤一郎「天鵞絨の夢」
大家からミステリ,ホラー,SFとなかなか強烈なラインナップだ。
だが,読後感は残念ながら今一つ。理由は明らかで,先に挙げた事件が示すように「監禁したいほど恋しい」ことと現実の「監禁」との間には,無関係と言えるほど距離があるからだ。
それは愛のようで愛ではない。「監禁」による愛の成就など御伽噺に過ぎず,相手に対する不断の思いやりなしにはただの人形遊びに過ぎない。もし「監禁」を描いて何か新しい感動を与える文学があり得るなら,それは山のようなエログロB級作品の中から僥倖のように立ち上るだろう。だが,本集に納められた作品の多くは,時代柄ただ耽美に走った谷崎は別として,書かれた段階ですでになにかしら人間を描こうとする意識が強すぎ,「監禁」の持つ本質的な暴力や「監禁」される者の恐怖,崩壊が描ききれていないような気がする。
要するに,現実の事件記事のほうがよほど心に深く陰を残すのだ。
なお,式貴士について少し説明しておこう。おぞおぞするようなグロテスクな刑罰を描いた『カンタン刑』,グロテスクなエロスとSFの結婚『連想トンネル』『吸魂鬼』などの作品は70年代の末から80年代半ばにかけてソニー・マガジンズおよび角川文庫から発行された。SFといっても未来のメカやネットワークが描かれるわけでなく,しいていえば人魚姫を描いてその食事や主人公とのセックスが描かれる,そんな感じだろうか。
1991年に亡くなった彼にはもう1つの顔がある。ハードレイプ,凌辱を得意とした官能作家,蘭光生である。二見書房の『女教師・犯す』は当時「本の雑誌」で最も過激なアダルト小説とされたように記憶している。現在駅の売店などで売られる(なじみの本屋では買えない)黒い表紙のフランス書院文庫を館淳一とともに初期のころ支えた作家の1人である。
本集におさめられた「おれの人形」は,式貴士ならではの超能力を持った主人公による拉致監禁レイプ譚。しかし,式作品の淫靡さ,蘭名義のハードさいずれにも欠け,お文学臭の強い本書の1つの限界を示しているようにも思われる。
ここは1つ自分で監禁文学の傑作を……なんてことを目論んでいると,家人が(また)実家に帰ってしまいそうで,それはちょっといやだ。
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