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2000/10/06

伝奇ホラーのイマイチ 『死国』 坂東真砂子 / 角川文庫

Img1618 【どうして,あたしが汚れた霊やの】

 言うまでもなく,映画化され,『リング2』と併映された伝奇ホラーの原作。

 烏丸は元来あまり熱心なホラーの読者でないし,詳しくもないが(怖い話は書いたり語ったりするのが好み),それにしても『死国』は怖くなかった。そもそも京極夏彦のような薀蓄に欠けるため,「四国は死の国」というスケールの大きな設定がこなされていないのである。

 たとえば本書では『古事記』冒頭の表記から古代史における四国を語るのだが,四国八十八ヶ所の霊場は空海(弘法大師)が開基したもので,真言宗との関連が深い。それなのに真言宗と神道のかかわりには詳しくは触れないため,怖いと思う前に少々途方に暮れてしまう。
 また,18年前に死んだ莎代里がよみがえるのは,その母親が八十八ヶ所を死者の歳の数だけ逆順に巡る「逆打ち」によって,と説明されるが,実際の遍路はこの順にあまりこだわらない。手近なところから参り始め,山奥など面倒なところは後回し,最終的に全部回って,お礼参りに高野山奥の院詣ででワンセットである。要するに便宜的な順番にそれほどの重みはないし,逆順に禁忌も聞かない。

 恋愛ドラマ的にも,よくわからない話ではある。
 主人公の比奈子は,東京での不毛な恋愛相手より幼なじみの文也を選ぶのだが,それが前者に倦んでモアベターな相手を選んだ,としか読めない。文也は文也で比奈子に「選ばれた」だけ,だから莎代里の誘いにも動揺する。2人の女の間で揺れるのは別によいとして,どちらに惹かれているようにも見えないのだ。要するに同窓会で異性になんとなくもやもやする,その程度の気持ちにドラマを任せた印象である。
 さらに,莎代里にしても,文也への思いが強いのか,それとも生者へのうらやみが強いのか,どうもよくわからない。怨霊が恨めしがりそうな要素は並んでいるのだが,決定打に欠ける。しかも怪しい気配がだんだん濃くなるのではなく,正面からどんっと出てきてセリフも口にする,これではいくら元死人でも(?)怪談として怖くなりようがないのである。当節流行のストーカーのほうが陰湿な分,よほど怖いかもしれない。

 映画ではNHK教育のドラマ『六番目の小夜子』で津村沙世子を演じた栗山千明が莎代里役をやっており,そのうちビデオでも見たいとは思っている。ただ,烏丸の周辺では,こちらも不評だった。

 ところで拙文を書くのに,ふと「死国」という言葉で紀伊国屋のデータベースをあたってみた。すると本書以外に,大杉博『四国は死国にされていた 大和朝廷の大秘密政策』(倭国研究所)という本があるではないか。1989年の発行で『死国』(1993年)より数年早い。だが『死国』の参考文献にこの本の名前はない。いけないなあ坂東さん,タイトルに先駆者がいたならせめて参考文献には載せなきゃ。
 ついでに調べてみるとこの倭国研究所,出版物はほかには大杉博氏の『ついに見つけた邪馬台国』『邪馬台国は四国にあった』『神代の史跡案内 日本神話の舞台は阿波だった!』の3冊しかない……。
 わーお。この大杉博って,岩田一平『珍説・奇説の邪馬台国』に出てきた,全国の邪馬台国研究家に無理やり自分の信念(?)送りつけ,他の説をとなえる論者は自分を論破できない限りすべて邪馬台国から手をひけと豪語し(無論たいがい無視されるし,反論されてもそれを絶対認めないのだから論破などあるわけがない),のちにはユダヤの秘宝にまで話をふくらませた,いわゆる立派な「とんでも」さんだぁ!

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