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2000/10/17

バッドテイスト本のスーパーイチオシ 『大江戸死体考 人斬り浅右衛門の時代』 氏家幹人 / 平凡社新書

Nimg1808【花のお江戸は今日も死体日和】

 法医学や警察・検察関係の書物を好むのは,この烏丸,以前より少々含むところがあって……では,ない。文学や漫画は好もしいが,それらでは得るのが難しい非デコラティブでソリッドな手応え,それが得たい夜には法医学本が最も手ごろなのだ。抽象的な言い方ではあるが,恋愛感情よりは論理,論理より鉱物,鉱物より死体について読むことが癒しになる精神状態もある。
 
 氏家幹人は上野正彦の対談集『死体を語ろう』(角川文庫)にも登場しており,本「くるくる回転図書館」でも紹介済みではある。その,歴史家・氏家幹人の,いわば本領発揮の一冊が本書であるが……。
 しかし,烏丸,修行のいたらなさをしみじみと感じ入る一冊でもあった。これは,さすがに気持ちが悪い。食事中に読めないとか,そんなレベルでなく(125文字,略)ほどの気持ち悪さであった。

 本書の目的は,江戸期の死体の扱いについてのあらゆる資料にあたり,従来我々が目をそらしてきた当時の思想,風俗,習慣に光を当てることにある。

 以下,少々気色の悪い表記が続くので,自称デリケートな方はご注意。

 まず,本書は,江戸期の水辺には水死体が決して珍しいものではなかったこと,また自殺者の死体で腐臭あふれる井戸水について語る。そして,処刑された死体の胴について,それを縛りつけ,刀で一刀両断にする様斬(ためしぎり)という風習があったことを紹介する。これを任務としてあたった一族が八代にわたる山田浅右衛門,いわゆる「人斬り浅右衛門」(朝右衛門とも)であること,そして彼らがいかにしてその任務を負うようになったか,その仕事や収入はいかなる具合であったかを詳細に説明する。

 この「詳細に」がクセモノ。
 山田家は浪人であり,浪人であるにもかかわらず諸候から多くの弟子を取り,地方に出張して処刑の任にあたることもある,いわば名誉職でもあった。つまり,様斬をみごとにしてのけ,よく切れる刀を持つことは武士の誉れでありながら,同時に泰平の世においてはそれができない武士が実は多かった,ということであり,まず死体(ときには生きた二つ重ね)を一刀両断に切って落とす技術,さらにどこをどう切ればどうなるかという経験に基づく知識,そして切った胴に手を突っ込んで肋骨のずれ具合などから切れ味をチェックして依頼主に伝え,さらに山田家が裕福だったのは処刑した罪人の死体を一括管理することで,様斬の素材を得るだけでなく,その脳や肝を薬として甕に溜め込んで薬として販売したためであり,この肝を得ることは金と名誉を得るため,処刑の折りにはむらがるようにして肝を取ろうとする輩が集う「ひえもんとり」なる一種の競技があり,しかし刑場では処刑の任にあたる者以外は刃物の携帯は許されないので,手で,しかも肝を手に入れられるのは一人だけなので,ほかの者は大変薬効のあるという踵の上部,アキレス腱のところの脂肪を,しかしそれは持ち運びの効かないものであるから,処刑と同時に走り寄って踵にかぶり付いて……。

 全編,延々とこの調子である。

 生肝を貯蔵するための蔵を用意し処刑者の胴や肝,脳を甕に溜め込み,幽霊の出る噂もあった山田家跡は,都内,K町からH町あたりで,現在は若い女性に人気のイタリア料理店になっているそうだ。気になる方は,ぜひ本書を取り寄せ,確認してはいかが。

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