マンガ評論のまぁ有名な本だし文庫になったし読んどいたほうがいいかも 『漫画の時間』 いしかわじゅん / 新潮OH!文庫
【青木光恵の結婚式でのサイバラのスピーチが,聞いてみたかった……】
いしかわじゅんは,やな奴だ。
「ぼくの基準では,ぼくはとり・みきに負けたことはない」(えっ?)
「新人が怖いと思ったこともない。…(略)…このくらいなら俺でも描けるな,と思うのだ」(ええっ!)
「ほとんどの同業者を,ぼくは怖くない。…(略)…それはギャグだけでなく,シリアスものでも同じだ」(えええーっ!?)
これ,作品のオリジナリティと作家について,言ってよいことではないように思う。業田良家より巧いマンガ家はいくらでもいるだろうが,『自虐の詩』は誰にも描けない。高橋陽一よりサッカーに詳しいマンガ家は少なくないに違いないが,『キャプテン翼』は彼にしか描けなかった。いしかわじゅんのこの物言いは,作家を自分だけが育てたつもりの三流編集者の傲慢さと同質だ。
ほかにも,いしかわじゅんは何か処かエラそうな態度を見せる。何人ものマンガ家を自分が育てたかのように言い,各社の編集者が自分を頼りにしているかのように書く。確かに,一部は本当にそうだったのだろう。また,とにもかくにも60冊もの単行本を出したのだ,多少胸を張ってもよいとは思う。
しかし……彼の作品が多くのマンガファン,マンガに詳しくない子供たち,マンガにうるさいマニアたちに,そう高い評価を得ていないことは事実だ。メジャーではないがマニアに高い評価,というわけでもない(少なくとも,烏丸が信頼するマニア,編集者の多くはとくに彼を評価していない)。また,彼が責任編集した双葉社の「アクション ラボ」も,集めたマンガ家の顔ぶれの割に評価されず,2号めは出なかった。売れなかっただけでなく「いかにも」なつまらなさで,要するに相手にされなかったのだ。
烏丸は,どんなプロ,マニアの目より,ファン(購入層)の目をとりあえず優先したい。自分に面白くない,下手に見える作品でも,売れているものには必ず何かその作品,作家固有の魅力がある。プロ,マニアの評を気にするのは,その魅力を自分より巧く見つけ出し,より巧く語ってくれることを期待するからだ。その意味でいしかわじゅんは信用できない。
……それでもなお,本『漫画の時間』を,烏丸は強くお奨めする。
なぜなら,この本に収録された約100作品のマンガ評は,ごく普通のマンガ読者に,思いがけない,新しいマンガの読み方を教えてくれるからだ。
個々の作家について,著者と評価を同じくする必要なんかない。ただ,1つの作品について,たとえば「こんなふうに肉体を描いたのは誰それだけ」だとか「余計な線の捨て方がすごい」とか「この会社から出るマンガがこうなのは」とか「明らかに誰それの模倣として出てきたのに独自性が」とか「絵がヘタだと言われる誰それだがこれこれに着目すると」とか,そういったさまざまなマンガの見方,「目利き」とでもいうか,それがあることを知り,それを知った上でマンガを読むのは,実に面白いことなのだ。同じマンガを読んでも一段深く楽しめるのだ。
そういう楽しみがあることを知るためだけでも,この本はお奨めなのである。
ついでに,ある超有名な女流マンガ家,それから同じく有名なベテランマンガ家が,肝心のマンガについていかに愚かか,それが知るためだけにこの本を手にしても損はない。知ったからといってしかたないんだけどさ。
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