『縄文人は飲んべえだった』 岩田一平 / 朝日新聞社(朝日文庫)
【ジョーモンの奇妙な冒険】
このところ,コミックに偏りすぎたかもしれない。猿より深く反省し,少し違うジャンルの本を取り上げることにしよう。よっこらしょ。なに? 本棚の本かかえるのに声が出るようになったらもう年だ? ……ほっといてくれ。
え,さて。
インプリンティング(刷り込み)が起こるのは子ガモに限った話ではない。不肖この烏丸,いまだ地球の人口は36億人だし,1$は360円(だからトヨタパブリカはぴったり1000$)。イグサ日本一が岡山県なら007はショーン・コネリー。無論スリランカはセイロン,ミャンマーはビルマだし,邪馬台国は北九州にあって,縄文人は狩猟採集,コメなんて口にしたこともない,はずであった。
ところが。近頃の縄文人は,どうもそうではないらしい。水田耕作こそしていないものの,コメを含む畑作に励み,食事は栄養的に優れ,ヤマブドウやサルナシを発酵させた酒まで飲むのだそうだ。しかも,弥生時代以降と違い,当時日本には下戸はいなかったというのである(*1)。
岩田一平(*2)の『縄文人は飲んべえだった』は,バイオ,CGなどの最新テクノロジーが古代史研究を塗り変えていく,そのあたりの経緯を丁寧に教えてくれる。下戸(ALDH2不活性型)の遺伝子やイネの遺伝子の解析,コンピュータを活用した言語分析,水銀鉱脈の分布と邪馬台国の関係(*3),タコ壺漁の消滅からうかがえる気候の変化,あるいはクソ石にごく微量残っている脂肪酸から明らかになる食生活。これらの研究から,日本人のルーツ,古代人の食生活,日本国の推移が少しずつ明らかになっていく。読み手の古い常識が覆される楽しみと,明らかになっていない史実への尽きない興味。
著者は,1つの説に固執するより,さまざまな説が入り混じった状態をよしとするタイプなのか,わからないことはわからないと率直に手を上げる。
新刊の『珍説・奇説の邪馬台国』(講談社)でも,「魏志倭人伝」の表記だけでは邪馬台国の位置は特定できないと説き,70にもおよぶ邪馬台国候補地からジャワ島説,新潟説,山陰説,岡山説,四国山上説などかなりアクの強いものを取り上げ,現地を訪ね,あげく「奮起せよ,全国の邪馬台国」と呼びかける(*4)。
つまり,社会派邪馬台国,ユーモア邪馬台国に対して新本格邪馬台国派が台頭,日常の謎邪馬台国,妖怪問答邪馬台国の一方,すべてが邪馬台国に……う,うざい。
*1……『孤独のグルメ』の井之頭五郎の先祖は,つまり弥生時代以降に大陸から渡ってきたことになる。
*2……「週刊朝日」副編集長。少し前のデキゴトロジー欄には,ゴキブリのフライを食べている氏の写真が掲載されていた。仕事とはいえ,同情を禁じえない。
*3……『縄文人は飲んべえだった』の次のような一説は,『陰陽師』の読者にも興味深いのではないか。「全国には,丹生(にう)という地名や丹生神社という名前の神社が数多く点在している。『丹生』は『丹を生ずる』という意味であり,古代に辰砂の採掘を行っていた名残と考えられる。(中略)中でも鉱脈の豊かな大和水銀鉱床にある和歌山県の丹生都比売(にうつひめ)神社には,丹生都比売のお使いのシカが,高野山の開祖の弘法大師空海を高野山に導いたという伝承がある。」
*4……鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』でも牽強付会ながら笑えないと紹介されている。意外にも(失礼),本格者より考古者のほうが懐が深いのか。
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