フォト
無料ブログはココログ

« 『沈黙の艦隊』 かわぐちかいじ / 講談社(モーニングKC,講談社漫画文庫) 書評後半 | トップページ | 『世界のあやとりがわかる あたらしいあやとり』 野口 廣 / 土屋書店 »

2000/08/25

『新解さんの謎』 赤瀬川原平 / 文藝春秋社(文春文庫)

Nimg884 【まれにかなえられて歓喜するいけない奴】

 三省堂の「新明解国語辞典」は辞書のくせに妙な自己主張があってどこかヘン! という,それだけといえばそれだけだが,奇妙といえば相当奇妙な事例を延々と紹介して読み手をだんだんナナメにネジマゲてしまう本。
 たとえば冒頭,作者のところに深夜電話をかけてきた知人の女性が訴える項目が,

   れんあい【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだいて,二人だけで一緒に居たい,出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら,それが,常にはかなえられないで,ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態

 「できるなら~」「まれに~」のあたりが,どことなく,否,かなりおかしい。ほかにも,「こくぞく【国賊】体制に対する叛乱を企てたり国家の大方針と反対したりする,いけない奴」「いえで【家出】帰らないつもりで自分の家をそっと出て,どこかへ行ってしまうこと」といった調子で,作者とその女性と読み手はどんどん新明解のページをめくっていく。
 項目語の用例もなかなか絶妙で,

   すなわち → 「玄関わきで草をむしっていたのが─西郷隆盛であった」

   たまゆら → 「春がきたら治るだろうと信じているから嬉しい。治らなかったらどうするか,そこまでは考えていない。考えないことによって女は─の平和を得ている」

等々の事例が次々と発見される。辞書にこのような過剰なものを詰め込んでしまう精神とはいったい何なのか。

 この本は単行本が発売され,話題になった頃に書店でたまたま手に取り,立ち読みをし始めるとあまりの面白さにもうページをめくる手が止まらない。
 これはたまらんと1冊買い求め,帰路の電車で読み進み読み返し,拙宅に走り帰って家人に「見ろ見ろこんなものが」と声を裏返したところ,大島紬の家人はいつものように三つ指ついて私を迎え,慌てず騒がず背後の本棚から赤い辞書を取り出し,「今さら何を騒ぎましょう。あれこれ注文のうるさいあなたと言葉をかわすのに用いてまいりましたのは,もう十何年も前からこの新明解第三版」。

« 『沈黙の艦隊』 かわぐちかいじ / 講談社(モーニングKC,講談社漫画文庫) 書評後半 | トップページ | 『世界のあやとりがわかる あたらしいあやとり』 野口 廣 / 土屋書店 »

テレビ・新聞・雑誌・出版」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 『沈黙の艦隊』 かわぐちかいじ / 講談社(モーニングKC,講談社漫画文庫) 書評後半 | トップページ | 『世界のあやとりがわかる あたらしいあやとり』 野口 廣 / 土屋書店 »