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2018/04/12

『三面鏡の恐怖』 木々高太郎 / 河出文庫

PhotoKAWADEノスタルジック探偵・怪奇・幻想シリーズ」の新刊。
想定外の面白さ。

殺人事件が起こるのは本文のおよそ3分の2、147ページにいたってから。そこまでの人物描写になんとも言えない味わいがある。

日本全土の電化を志す電球会社の社長、真山十吉
十吉の最初の妻は三升財閥の有力者の娘だったが、結婚2年後に亡くなっている
その妻の母 川辺友子、妹 川辺辰美は今も十吉と同居している
かつて十吉に捨てられた恋人、尾崎嘉代子
嘉代子は十吉と親しい弁護士平原勝之助と結婚、のち離婚、病死

物語は、この電球会社の社長十吉のもとに、亡くなった尾崎嘉代子の妹を名乗る尾崎伊都子が訪れることで動き出す……。

人間関係は結婚、死別、離別がからまってやや煩雑だが、文章で読む分にはすんなり腹に収まる。
たとえば十吉はかつての恋人の妹、伊都子と再婚するにいたるのだが、その過程がほとんど描写されなくともとくに気にならない。
出会った日の伊都子、十吉それぞれの言葉が豊かな水気をたっぷりと含んでいるため、その後二人が惹かれ合って結婚しようが、憎み合って殺し合おうが、なんら不思議に思われないのである。

タイトルにある「三面鏡」は、言うなればこの事件を女性目線で語るものといえようが、作品全体を電気事業の在り方や経営陣と組合活動の軋轢を(あっさりとながら)描いた企業小説と読むこともできる。さらに、終戦直後の1948年に書かれながら、ドライでクールな展開が妙に「昭和」を逸脱して不可思議。

事件解決はやや無理やりトリックを組み立てた印象で、推理小説としてかならずしも最上のものとは思えないが、ともかく読書の楽しみを味わうことのできる稀有な1冊。
なにより、登場人物の誰に感情移入するかによって、これほど意外性、サスペンス色の変わる作品も少ないのではないか。

2018/04/04

漆黒 『蟇の血』 近藤ようこ、『フラジャイル(11)』 恵 三朗

黒いマンガを、2冊。

Photo『蟇の血』 近藤ようこ、原作 田中貢太郎 / KADOKAWA BEAM COMIX

田中貢太郎による原作は創元推理文庫『日本怪奇小説傑作集』の第1巻に収録されている。そのままでも十分気色悪いが、転がるような展開の中に読み手の想像力に委ねる部位がまだ微かに残され、どこかしらファンタジーの気配があった。
近藤ようこはその原作に忠実にストーリーを展開しながら、妖異を描くことに容赦がない。
追い詰められる悪夢のようであり、また悪い夢では片付かない絶望感。
この十年、二十年に読んだマンガの中でも図抜けて気持ちが悪い。怖い。

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(11)』 原作 草水 敏、漫画 恵 三朗 / 講談社 アフタヌーンKC

容赦ないといえば『フラジャイル』の新刊も凄い。
かつて新薬の開発をめぐって主人公と対立した元・製薬会社の幹部を主人公に、医薬界のダークサイドを描く。
描かれる「黒」は、色の三原色を混ぜ合わせることでできる濁った黒ではない。漆のような、まごうことなき「黒」であり、それはもはや敵味方、善悪などという生ぬるい評価とは途絶したところで読み手を魅了する。
スピンオフという扱いらしいが、ある意味、(子供の病気を扱った一つ前の巻などよりよほど)このシリーズを代表する1冊かと思う。

Photo_3

2018/03/29

『ふるぎぬや紋様帳<三>』 波津彬子 / 小学館 フラワーコミックススペシャル

3この作者らしい」と一定の興趣は感じつつ「こんなものだろうか」と流す印象だったものが、この三巻にいたって俄然心に染みた。
一巻、二巻とことさら何が違うわけでもないのに、あやかしの「ふるぎぬや」をめぐるそれぞれの登場人物、その関係性が、澱のように降り積もって効果を放つ。

思い起こせば波津彬子の最近のシリーズ作、『女神さまと私』や『レディシノワズリ』は2冊で完結。この作者ならではの煮凝りが融けて動き出す前に終わってしまった印象だった。
もとより短篇連作の人ではあるが、その描かれる素材が骨董や和装、古い館であるだけに、ただモノがそこにあるだけでなく、誰に、いつから、どのように、といった積み重なるものがあって初めてお話が整うのか、などとも思う。

いつからかすっかり慣れてしまったが、奇妙な絵柄ではある。
表紙の「ふるぎぬや」主人の顔ひとつ見ても、掌で左右の半分、上下の半分をそれぞれ隠してみると、どこを見ているのか、哀しんでいるのか笑みを浮かべているのか、さっぱりわからない。ところが全体を見るとこれはこういうもの、と綺麗に納まってしまう。
ウェットなストーリーに全編にギャグが溢れることも含め、金沢の生んだ不思議な作家の一人である。

2018/03/17

相転移する 『二匹目の金魚』 panpanya / 白泉社

Photo足摺り水族館』など、寡作ながら特異性では異彩を放つpanpanyaの新刊。

作者の作風は有り体に言えば「幻想的」、である。
ただ、世間一般の「幻想的」作品の多くでは、確か、と思われた日常がだんだんあやふや、曖昧になってしまう、化学でいうところの「融解」、「昇華」、すなわち

  固体 → 液体

  固体 → 気体

の相転移が描かれる(それも

  固体 → 液体 → 気体

でなく、いきなり気体になってしまうほうが概してより衝撃は大きい)。
などと思わせぶりなことを書いたが、これは今日初めて書いたことであって別に確信があるわけでもない。

それはともかくpanpanyaの短篇ではむしろ語り手の曖昧な記憶や思い込みが

  気体 → 固体

に、これも「昇華」というのだが(「凝華」とも)、そのような方向にそって描かれることが多い。

したがって、各作品のページ内では防災無線のメロディやかくれんぼや神社のお守りや一方通行の交通標識など、日頃ごく当たり前に思われていたものがだんだん明確な、ただし、日常それらがそう思われているものとは微妙に違う何ものかに「昇華(凝華)」していく。

結果として語り手が得るお守りや二匹目の金魚は、実はお守りや金魚ではない。かもしれない。

※その過程において、曖昧さはむしろ嫌われる。
と注釈じみたことを付記したところで、もちろんこちらもそれほど意味はない。

こういった相転移によるためだろうか、panpanyaのそれぞれの短篇はいつもどこかほんの少ししょっぱい。

そんなことを考えた。
もう取り返しがつかない。

〔短評〕 『こぐまのケーキ屋さん』 カメントツ / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

PhotoTwitter上で発表されてきた同タイトルの4コママンガを急遽1冊にまとたもの。

作者については、以前、『カメントツのルポ漫画地獄』『カメントツの漫画ならず道(1)』というわりあいブラックかつキワモノテイストな2冊を紹介した際、「大切なものを大切に扱う」と評させていただいたが、その読みが決して間違っていなかったように思われて嬉しい。
本書は、いわばその「大切なもの」だけを丁寧に抽出して綴じ合わせた、そんな小さな宝物。

収録作のボリューム(大半がTwitterで既出)や価格が気になる方もいるだろうが、装丁、印刷、紙質まで含め、繰り返し読まれる「絵本」と考えれば文句はない。

できれば──自分の子供たちがもっと小さなうちに、この本を一緒に読めればよかったな。

«閲覧注意?? 『疑問の黒枠』 小酒井不木 / 河出文庫