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2016/08/23

多摩川から宇宙(そら)をのぞむ 『蒼の六郷』 あさりよしとお / 白泉社

Photo小学4年生の真潮クンが女子高校生の昂を誘って多摩川下流から東京湾へ、小型潜水艇で大冒険。怪しい黒幕、窓外に見ゆるは巨大ダコ!

物語は作者得意のちょっとエッチなドタバタギャグで始まるが、やがてあの『まんがサイエンスⅧ ロボットの来た道』や『なつのロケット』に通じる切なさ、寂寥感が漂い始める。──

『蒼の六郷』のタイトルは『サブマリン707』の小沢さとるの海洋サスペンスマンガ『青の6号』から借りたものだが、それはともかく、舞台の「六郷」は大田区の多摩川沿い。
シン・ゴジラといい、どうしたんだ。大田区の特区化が進んでいるのかそうなのか。

2016/08/19

〔短評〕 『ベイビーステップ』(41巻) 勝木 光 / 講談社コミックス

Baby読むのが少しつらかった前巻に比べ、今回はこの作品らしく明確な目標設定とそこに達するための特訓がゲシゲシ楽しめる。こうでなくっちゃ。
(とはいえ「打点の位置に入るためのフットワーク」なんて基本中の基本で、いくら世界のトッププロに刺激を受けたからといって数ヶ月で劇的に改善されるとは思えないのだが。)

ところで、作中に登場する、ランキング世界1位のレヴィナ・マックス。モデルは誰なのだろう。
左利き、両手打ちバックハンドといえばナダル? ラケットはマレーのHEAD RADICAL? 25歳で全豪優勝、全仏準優勝のキャリアはフェデラー? オールラウンドなプレイスタイルはジョコビッチ? 見事にビッグ4のパッチワーク。
ただ、マンガの中とはいえフォームに柔軟性が欠けるのが気になる。上半身と下半身がバラバラ。……そんなことでは傷の癒えたデル・ポトロの回り込んでのフォアハンド逆クロスは返せまいよ。ふははは。

2016/08/17

せっかく神さまが、先生を 『拝み屋怪談 禁忌を書く』 郷内心瞳 / 角川ホラー文庫

Photo個人や場所を特定されないように書くためか、実話怪談はおおむねオチの鮮明な掌編として書かれることが多い(長編での成功例となると小野不由美『残穢』くらいだろうか)。

結果、実話怪談はいずれも似たような黒い表紙の掌編集となり、新味を謳いづらい。怪談作家はそれぞれ、百物語の体裁をとる、ローカル色を出す、語り口やキャラクターに異風を求めるなど工夫をこらすが、差別化という点ではさほど効果が上がっていない。

そんな従来の実話怪談に対し、郷内新瞳はプロの拝み屋として書くことによって、怪異をこうむった相談者が死にいたったり、著者の心身が痛手をこうむったりする場合もあり得る──つまり、制限のない怪異の暴威を描くことを可能にしている。
と、ここまでは前回『拝み屋郷内 怪談始末』『拝み屋郷内 花嫁の家』の紹介の折にも書いた。

新刊の『拝み屋怪談 禁忌を書く』は、その『拝み屋郷内 花嫁の家』を書き上げた時期、著者の身辺に発現し、著者を苦しめた怪異をいくつかの柱とし、著者が聞き集めた実話怪談を枝葉状に並べたような形になっている。
その怪異のいくつかは執拗で、暴力的だ。著者の前に立ちふさがる凶暴な敵なのである。

思い起こせば現在の実話怪談ブームの火付け役の一端は、90年代後半の『新耳袋 現代百物語』(木原浩勝・中山市朗)のヒットだった。これは青山墓地の幽霊タクシーに代表されるような、因果にこだわった従来の幽霊談に対し、日常に現れた説明のつかない怪を語って読み手を不安に陥れるというものだった(夜の坂道を前回りしながら降りていく背広の男や、一軒家の地下に設えられた出入り口のない四角い部屋などが思い起こされる)。

郷内怪談はここにいたって方向をさらに回転させ、(体を張って)自らに敵対する嗜虐的な怪異とその因果を描く。
幽霊、心霊モノより、祟り神、ないし神を騙るなにかヨコシマなものを扱うときに筆が踊る。それも郷内怪談の特徴の一つだろう。

角川ホラー文庫の前作『拝み屋怪談 逆さ稲荷』や本作によると、『花嫁の家』以外にも猛り、嗤う怪異のストックはいくつか残っているもようだ。新作を楽しみに待ちたい。よしんば著者が押入れを覗くたびに女の首ががさがさと音を立てて待っていようとも(読者とは祟り神のようなものなのである)。

2016/08/08

〔短評〕 『白骨の処女』『問題物件』

最近文庫化されたミステリ(のうち、やや風変わりなもの)を2冊。

Photo『白骨の処女』 森下雨村 / 河出文庫

昭和7年に発表された作品。ながく復刊の機会を得ず、古書として数万円でやり取りされてきた由。

山前譲の解説によれば、

  戦前の探偵小説界を牽引した「新青年」の初代編集長として、そして江戸川乱歩のデビュー作である「二銭銅貨」を認めた編集者として、雨村は語られてきた

とのことで、そういったキャリアから、本作も殺害トリック、アリバイトリック、さらにはストーリー全体にかかるトリックと、当時としては並々ならぬ探偵小説の腕が存分に振るわれた、読み応えのある作品となっている。

個人的にはそのような探偵小説としてのプロットに加え、モダンかつ明朗な昭和初期の風情を楽しく読んだ。小沼丹の短編など読んでも感じることだが、戦前の、無職の若者をごく当たり前に寄宿させる、あのノンシャランな感覚はなんだったのだろう。当時と現代と、いったいどちらが豊かなのか、とも思う。
(新聞社の社員ですらない、今でいうフリーライターに、警察が新聞記者が宿屋がやすやすと個人情報を明かす無頓着さも、これはこれで一興か。)

『問題物件』 大倉崇裕 / 光文社文庫

不動産業界に勤める主人公が、行きがかり上やむなく、居座り、連続自殺、ゴミ屋敷、ポルターガイストなどの問題物件を解決する、という連作短編集。

作者は過去いくつかトリッキーなミステリシリーズを発表した、いわばそのスジのベテランなので、普通に期待したのだが、想像していたものとは少しアングルが違っていた。これはミステリというより、ファンタジー。
その展開たるや、ホームズがベーカー街の2階から「犯人、出てこい」と叫ぶと犯人が自分から現れる、に近い。その無理矢理さをギャグにしたかったのか、とも考えてみるが、すっきり笑うことはできない。ユーモアとはもっと厳しいものだ。

不動産における問題物件という現代的なテーマに対し、ごく普通の探偵を配し、ごく普通に謎を解かせれば十分面白いものができたように思うのだが、なぜこんな破れかぶれにしてしまったのだろう?

2016/07/30

『最後のレストラン』(現在8巻まで) 藤栄道彦 / 新潮社 BUNCH COMICS

Photo【さて 不思議じゃのう…】

何度も書いてきたことだが、なんらかの難題が提示され、それを作品のテーマにそって解決していく──というタイプの一話読み切りマンガはもう少し高く評価されてよいように思う(『代打屋トーゴー』や『スーパードクターK』など)。

藤栄道彦の作品も、『コンシェルジュ』(シリーズ通巻31巻)、そして現在連載中の『最後のレストラン』など、そのスタイルで貫き通されている。

『最後のレストラン』は、偏屈で厭世的なシェフの商うフレンチ・レストラン「ヘブンズドア」に毎回死を直前にした歴史上の偉人がタイムスリップして現れ、彼らが満足する人生最後の一皿を提供しなければならない、という設定。
軽めの絵柄、シェフのネガティブな言動などによってちょっと見ギャグ、パロディの色合いが強いが、なにしろ死を目前にした最後の一皿である。何冊か読み続けるうちに読み手の海馬に澱のようなものが溜まっていく、ような気がしないでもない。

「ヘブンズドア」に登場するゲストは、織田信長、マリー・アントワネット、坂本龍馬、ジャンヌ・ダルク、ヒトラー、安徳天皇、澤村榮治、ラスプーチン、戦艦大和乗員一同などなど。
登場人物によって、読み手の好みが大きくブレそうな作品ではあるが、その人物が間もなく死ぬ認識のあるもの、ないもの、歴史上語られているとおりの人物として描かれたもの、逆のもの、現代にそのまま残ってしまうもの、過去に戻るもの、それに対するシェフの姑息な(?)一皿ともどもバリエーション豊かで、なかなか飽きさせない。
飽きることはないが、偉人たちのそれぞれ戻った先での運命を思えば、料理はどこか苦い。

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